オンラインショップ

会員ページ

911日、日本美術をテーマにしたオンラインセッションを開催いたしました。講師は、岡田美術館館長の小林忠先生と日本画家の神戸智行さん。司会はめがちゃんこと、和樂ライターの高橋亜弥子さんです。小林先生は、彬子女王殿下の学習院大学時代の恩師であり、学生時代は先生が愛情深く作品を語られるのを聞いて、日本美術の奥深さにのめりこんでいかれたと言います。神戸さんも、心游舎創設当時から、賛同者として心游舎を支えてくださり、日本画のワークショップも何回もお務め頂いています。そんな皆さんの日本美術愛に溢れた1時間半となりました。

まずは、小林先生から日本美術とは何かという大枠のお話がありました。美術という概念は、明治時代に西洋から入ってきたもので、それまでの日本に美術という概念はありませんでした。信仰のためや、人々の生活をより美しく、快適にするために、先人たちが生み出してきたもので、「美術」として生まれたものはありません。彫刻や絵画に表現された信仰の世界に、人々は救いを見出し、時折開いて鑑賞する絵巻物や折々にかけ替えられる掛け軸に心を癒されてきたのです。

神戸さんは、太宰府にあるアトリエからご自身の作品解説や、日本画の技法について教えてくださいました。神戸さんの作品はとても繊細。金箔を貼った上に、薄い和紙を貼り、その上に描かれた作品もあります。箔は繊細で、風で飛んでしまうため、夏に作品を作るときは、直前まで部屋をキンキンに冷やして、冷房を止めて箔を貼る作業をされるそうです。金箔は今値上がりしていて、1200円くらいするとか。作品のお値段が張るのも頷けます。日本画の顔料は、マラカイトやタイガーアイといった鉱物をすりつぶしてできており、粒子の粗さで色のグラデーションができます。荒いものほど色が濃く、細かいほど薄くなります。一つの石から色々な色が生まれると言うのがおもしろいですね。

神戸さんの作品は、「お人柄が出ていて、とてもやさしい」と彬子さまは言われますが、「荒(あら)と和(にぎ)という考え方では、神戸さんの作品は和でしょうね」と小林先生。伊藤若冲や曽我蕭白などは、荒々しく力強い「荒」、円山応挙や長澤芦雪などは柔和でやさしい「和」の絵師でしょうか。葛飾北斎は、荒と和、両方を兼ね備えた絵師であったと言えるかもしれません。

神戸さんは今、太宰府天満宮の襖絵を描いておられますが、まさにこれは祈りの絵画。病気になっても、医者にかかることや薬を飲むことが簡単ではなかった昔、人々は治るように祈るしかありませんでした。鍾馗は、玄宗皇帝が熱病で苦しんでいた時、夢に登場し、鬼を退治すると、翌朝熱もすっかり下がっていたという伝承があり、厄除けや疫病除けの神様として親しまれています。赤は厄除けの色でもあり、赤で描かれた鍾馗さんの絵を飾り、人々は祈りを捧げたそうです。昨年流行ったアマビエも、こういった人々の祈りから生まれてきたものでしょう。

美術館に行くのは、なんだかハードルが高いと思っているかたも多いかもしれませんが、何か一点心が動く作品に出会えたら良いと小林先生は言われます。全体を見て、また近づいて細部を見て、その作品の前でゆったりとした時間を過ごす。そこから絵を描く人の思いや生き方などを感じることができたりもします。なかなか美術館や博物館にも足を運びにくいご時世ではありますが、こんなご時世だからこそ、日本美術が果たす役割も大きいのではないかと思います。

最後は、視聴者の方たちから頂いたたくさんのご質問にも、お二人は真摯にお答えくださいました。神戸さんのインターネット環境があまりよくなかったため、聞き取りにくい場面が多々ありましたが、最後までほとんどの方がご覧くださったのは、本当にありがたいことで、お二人のお人柄のおかげであったと思っております。また日本美術のセッション第二弾も企画したいと思いますので、どうぞご期待くださいませ。

次回のオンラインセッションは、925日。京都産業大学京都文化特殊演習の学生たちが企画・運営したワークショップ「明日も和菓子食べたい」を開催いたします。御室和菓子いと達の伊藤達也さんにご協力いただき、学生たちが何か月もかけて準備してきました。まだまだ席に余裕がありますので、ぜひご参加ください。

※写真の無断転載は固くお断りいたします。