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日本神話「天若日子の死と阿遅志貴高日子根神」
9月2日(土)、今年度の日本神話オンラインセミナーの第3回「天若日子の死と阿遅志貴高日子根神」を開催致しました。神話シリーズが始まり早いもので3年。トータルすると第9回を数えるようになりました。
今回も彬子女王殿下に特別出演いただき、講師にはオロチ先生こと立虫神社・万九千神社宮司の錦田剛志さん、司会進行を和樂ライターの高橋亜弥子さんに務めていただき、今回もあっという間の1時間となりました。
葦原中国平定の為の使者として遣わされながら、その使命を忘れた天若日子は尋問に遣わされた鳴女(雉)も天佐具女に唆されて射殺してしまいます。
その報いか、高天原から高木神(高御産巣日神)によって投げ返された自身の矢に胸を衝かれて死んでしまいます。
天若日子の死を悲しんだ妻下照比売の泣声は高天原まで響き、天若日子の死を知った天津国玉神らは非常に嘆き悲しんで、弔いの為の喪屋を建て、鷺やカワセミ、雀らに役割を充てて何日にも亘って歌舞音曲を奏でて天若日子の葬儀を執り行いますが、そこへ弔いに現れた大国主神の御子である阿遅志貴高日子根神の姿を見て、天若日子と勘違いして「私の息子は死んでいなかった」と喜び縋りついてしまいます。これに阿遅志貴高日子根神は「不浄な死者に間違えるとは無礼な」と激怒して、剣で喪屋を斬り倒し、更には遠く彼方へ蹴飛ばしてしまいます。そんな乱暴な兄の名誉を守る為、下照比売は阿遅志貴高日子根神を称える歌を詠んで、兄神の名誉を回復します。
前回、天若日子を問い質す役割を雉が担ったことは、空を飛翔することが出来る鳥には、高天原(天上)と葦原中国(地上)という異世界を繋ぐ使者としての側面のほか、「願いを届ける神の使い」や「死者の霊魂を運ぶ使者」として神聖視されていた面があったとのお話がありました。
天の石屋神話の常世之長鳴鳥、神武東征での八咫烏など神話では鳥が重要な役割を果たす場面がいくつかあります。今回も、天若日子の葬儀を執り行った際には、鷺や雀、カワセミに雁といった鳥たちが、御供物を捧げ持つ、葬儀の斎場を掃き清めるなど天若日子の弔いに奉仕します。古代の人々が鳥に対して抱いていた特別な感情を垣間見ることが出来ます。
また、親しい友人として天若日子の弔いに現れながら、その容姿を天若日子と見間違えられたことに激怒した阿遅志貴高日子根神、農耕神や雷神、あるいは光り輝く立派な神ではありますが、少々短気なところがあるのも日本神話に登場する神々の特色として興味深いものがあります。
この阿遅志貴高日子根神は、出雲大社の宮司である出雲国造が代替わりに際して天皇の御前で奏上したと伝えられる「出雲国造神賀詞」にも「皇孫の近き守神」として大和の地に祀られたといわれ、阿遅志貴高日子根神を祀る高鴨神社がそれであると言われています。
また、激怒した阿遅志貴高日子根神が蹴飛ばした天若日子の喪屋は、出雲から遠く離れた美濃国、現在の岐阜県の長良川中流付近まで飛んでいったと伝えられ、近くには天若日子をお祀りする大矢田神社や蹴飛ばされた喪屋そのものであると伝えられる喪山等の伝承地があり、出雲から遠く離れた場所で出雲神話にまつわる伝承が語り継がれてきたことは、とても興味深いお話でした。
次回は遂に真打ちとも言える神様、建御雷神が登場します。出雲大社のすぐ近くにある稲佐の浜、また島根半島の東端にある美保関を舞台として大国主神たちに国譲りに関する考えを問う建御雷神、来年度に続くお話を楽しみにお待ちいただきたいと思います。

 

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