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本当に11月なのかと思ってしまうようなあたたかい日が続いていましたが、ぐっと冷え込んできました。なんだか秋を飛ばして冬になってしまうようですね。心游舎理事の小田文英さんの住む北海道では、もう雪の便りが聞こえているはず。久しぶりに日本文化エッセイをお届けいたします。
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11月は何となく寂しい月。暦の上で、立冬、小雪と冬の足音が聞こえるからでしょうか。今年は、足音が随分遠くにあるように感じますが、あえて雪のお話を。
私は、生まれも育ちも北海道ですが、仕事で青森に1年半ほど住んでいたことがあります。職場の飲み会の二次会と言えばカラオケ。地元の方が、折角青森に来たならこの曲は覚えないといけないと教えてくれたのが新沼謙治さんの津軽恋女。何度となく耳にしたので、思い出深い曲。
降りつもる雪 雪 雪また雪よ
津軽には七つの雪が降るとか
こな雪 つぶ雪 わた雪 ざらめ雪
みず雪 かた雪 春待つ氷雪
この季節になると思い出す印象深い歌詞です。
ご存知の方も多いと思いますが、この歌詞は太宰治の「津軽」において
津軽の雪
こな雪
つぶ雪
わた雪
みづ雪
かた雪
ざらめ雪
こほり雪
と始まる冒頭からの引用。
太宰治自身は、この雪の名称を1941年の東奥年鑑から引用。
今になって、面白いと思えるのは、雪に名前がつくことによって、分類され、「雪」とシンプルに表現される以上の意味が一つひとつに生まれること。
太宰治の引用した東奥年鑑には、一つひとつの説明があります。
「積雪ノ種類ノ名称」
こなゆき 湿気ノ少ナイ軽イ雪デ息ヲ吹キカケルト粒子ガ容易ニ飛散スル
つぶゆき 粒状ノ雪(霰ヲ含ム)ノ積モツタモノ
わたゆき 根雪初頭及ビ最盛期ノ表層ニ最モ普通ニ見ラレル綿状ノ積雪デ余リ硬クナイモノ
みづゆき 水分ノ多イ雪ガ積ツタモノ又ハ日射暖気ノ為積雪ガ水分ヲ多ク含ム様ニナツタモノ
かたゆき 積雪ガ種々ノ原因ノ下ニ硬クナツタモノデ根雪最盛期以後下層ニ普通ニ見ラレルモノ
ざらめゆき 雪粒子ガ再結晶ヲ繰返シ肉眼デ認メラレル程度ニナツタモノ
こほりゆき みずゆき、ざらめゆきガ氷結シテ硬クナリ氷ニ近イ状態ニナツタモノ
読みにくいですが、さらさらだと粉雪。普通の雪が粒雪。降り積もった雪の表面が綿雪。どっしり重い水雪(今だとベタ雪と呼ぶことが多そうです)。降り積もって下の方でギュッと押し固められたかた雪。シャーベットのような状態のざらめ雪。完全に氷状になった氷雪。こうしてみると、水分量での区分けが3種類、積もった表面か底部かで2種類、凍結具合で2種類の7種類とわかります。
生活の中で、雪に触れていると、雪と一言に言っても、様々な状態があります。粉雪だとゆっくりと降ってくるので、街灯に照らされた雪をじっくりと見て、何となく幻想的な気持ちに。一方で、水雪だと降るスピードが速く、歩く足を急かされる気持ちに。雪が積もったときは、道路脇に雪山が沢山できるのですが、地面の汚れと共に積み上げられるので、薄汚れた雪山に。ところが、そこに雪が降ると、雪山を綿雪が隠してくれて、一面の銀世界。
様々な色、そして色味があるように、雪も様々。雪から伝わってくるものも様々。こうして、雪の名前が分かれていることを考えると、雪からのメッセージを受け取っていたのは、古くからあったことのように思います。
北国の生活の中で、雪は厄介者と思われがち。ですが、自然に対して厄介というのも不思議なこと。人が住みつく前から、そこに降り積もっていたのですから。雪かきをすると、大変さにそんな思いは忘れがちですが、改めて雪を感じ分けると、少し気持ちも軽くなりそうです。心游舎総裁の彬子女王殿下のおしるしが雪なのを知り、何となく嬉しくなったのを思い出します。今年も津軽恋女を口ずさむ季節の到来です。