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新緑が目にまぶしくなってきた今日このごろ。ついこの間まで桜を見ながら春を満喫していたのに、すっかり初夏の装いですね。今日は二十四節気七十二候の「虹始見(にじはじめてあらわる)」。冬の間は乾燥して見られなかった虹が、春になって空気が潤うようになり、見られるようになるという意味です。夏の夕立の後に見られると、なんだかいいことがありそうな気がしますよね。虹という字は虫偏ですが、虹は龍の形をした獣であると考えられていたからだそうです。
今回のコラムは、心游舎理事で、東京大神宮権宮司の松山幾一さんです。元々日比谷大神宮であった東京大神宮は、神前結婚式を初めて行った神社として知られています。今回は、その始まりのお話について書いてくださいました。以前のような盛大な結婚式や披露宴がなかなかできないご時勢ではありますが、ご家族のみのあたたかい空気感の挙式を選択される方も増えているようです。
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神前結婚式のはじまり
結婚は人生に於ける慶事で古くより「冠婚葬祭」の1つとして、男女が新家庭を作り新生活への第一歩を踏み出す極めて意義深い儀礼です。
結婚式には古くより種々な慣例があり、地方により相違もありますが、婚儀が「嫁入」の形態をとり、その儀式作法が完成したのは、概ね室町時代といわれています。 その後、伊勢流・小笠原流などの礼法ができ、公家・大名をはじめ武士・町人に至るまで、広く普及しました。これらの婚儀は家庭を式場とし婿嫁と侍上臈と呼ばれる女性が主体となり執り行なわれ、この伝統的な礼法に基づく挙式には神への信仰をうかがうことができます。
床の間には夫婦の祖神として伊弉諾尊、伊弉冊尊の掛け軸や、その他信仰する神々の御名の軸を懸け、その御前には神酒等を供えて夫婦の円満を祈り、その神酒を戴いて夫婦の固めをなすという趣旨のものでした。
このように家庭で行われる結婚式であっても、その根本には神前に於いて夫婦の和合を祈り、契が固められるという信仰があり、広い意味でこれも神前結婚式ということができると思います。
それでは神社における神前結婚式はといいますと、日比谷大神宮(後の東京大神宮)で最初に行われました。この契機となったのが明治33年5月10日の皇室におけるご婚儀でした。皇太子嘉仁親王殿下(大正天皇)と九条節子姫(貞明皇后)とのご結婚の儀が、宮中の歴史始まって以来はじめて賢所大前にて執り行なわれました。この挙式は世間の注目を集めたことはいうまでもありません。
日比谷大神宮では翌年の春に、実践女学校の下田歌子校長の協力を得て、凡そ20名の女学生により模擬挙式を開催しました。当日は大変な盛会となり新聞も一斉にこの様子を大きく掲載しました。
そして、当日の参観者の一人、高木兼寛男爵がこの模擬結婚式に深い感銘を受けて、自ら媒酌人となって明治34年7月21日、結婚式を日比谷大神宮のご神殿にて執り行ないました。これが正式な神前結婚式の最初とされています。
また、夏目漱石の小説「行人」には、日比谷大神宮の挙式の様子が細かく書かれています。もしかすると、漱石は日比谷大神宮の挙式に参列されたのかも知れません。
東京大神宮では当時のままに、伝統的で格式の高い神前結婚式を今に守り伝えております。