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関東地域で、昨夜大きな地震がありました。かなり長時間揺れて怖かったという声を各所から伺っています。皆様のお住いの地域はいかがでしたか?そこまで大きな被害はなかったようで安心していますが、この先何事もないことを祈っています。

天高く馬肥ゆる秋と言いますが、少しずつ空が高くなっている気がする今日この頃。今日の京都は、夏の雲と秋の雲が空に同居していました。ちょうど夏の秋の境目ですね。

今日のコラムは、能楽師の大槻裕一さんが書いてくれました。昨年の2月末頃から、大人数が集まるイベントが開催できなくなり、伝統芸能、音楽、演劇など、エンターテインメント業界は大きな打撃を受けました。不要不急のことはできないと言われることが、今まで自分がやってきたことは皆にとって不要のものだったのかと、自分の積み重ねてきたことを全否定されたような気がしてつらかったというお話は、エンターテインメントに携わる多くの方たちから聞きました。

この世の中に、不急のことはあっても、不要なことは何一つないと思います。多くの方たちが、「必要」と思われたからこそ、エンターテインメントは今世の中に存在するのですから。

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「コロナ禍の舞台芸術についてもう⼀度考える」

2歳から能舞台に⽴って以来、能楽⼀筋の⼈⽣を送っていますが、実は半年に⼀度くらいの頻度で猛烈に⼼変わりをすることがあります。それは、他の舞台を観劇した⽇。

歌舞伎を観た⽇には、帰り道にどうやったら歌舞伎役者になれるのか真剣に考え、宝塚歌劇を堪能した時には、そのスケールの⼤きさに圧倒され、夢⾒⼼地になります。素晴らしい演劇を観劇することは、私にとって何にも代えがたい実り多き時間です。だからこそコロナ禍での舞台芸術についていろんな考えを巡らしています。

丁度1年前、予定されていたあらゆる舞台芸術が軒並み中⽌になりました。そこから演劇の関係者達が発起して「このままでは舞台芸術が滅びる」と声明を出したり、劇場での観劇は感染予防を徹底すれば⼤きなリスクに繋がることはないという安全性を発表したり、初めは業界全体が不安や憤りで混乱に満ちていましたが、冷静に捉えることで、試⾏錯誤に知恵を絞って、どうすべきか練り直そうという良い⽅向に変化していったように感じます。

しかし、変異株が急拡⼤している 2021 年夏の終わりの今、再び演劇界は真っ⿊な積乱雲が凄まじいスピードで覆い隠してくるような、そんな不穏な空気をひしひしと感じています。

実際に「唯⼀の趣味 舞台鑑賞」の私が、劇場に観客として⾜を運ぶことに躊躇してしまう怖さがあります。確かに観劇⾃体は、ルールを守り観客とキャストスタッフが⼀体となれば⼤きなリスクは感じません。先⽇観劇した 2,5 次元のミュージカルは、2000 ⼈規模のホールですが、休憩時間も静寂に包まれ、ストレスなく楽しむことができました。

ですが、⾏き帰りの道中、劇場のトイレなど、リスクは⾄る所にありただただ怖いのです。能の公演を開催すると「中⽌にならないで本当に良かった」と感謝や激励のお⼿紙を頂くことがあります。けれども、私⾃⾝が実際に体感してみて、そんな⾵に応援してくださるお客様を守りたいし危険な⽬に合わせたくない。公演を作り出す側として「舞台観劇は安全です」と胸を張って⾔い切れない現状を受け⽌めるべきだとも思うのです。

⼀⽅で何⼗年、何百年かけて⽣み出す舞台芸術が滅びるのなんて⼀瞬のことだという考えもわかります。危険だと感じる⼈は観に⾏かなければいいと⾔う意⾒もありますが、好きな舞台が興⾏していたら観に⾏きたくなるのが「趣味 舞台鑑賞」のさがなのです。

舞台は命懸けで観劇するものではありません。もう⼀度、安⼼安全な状況で、⼼を豊かに観劇できる⽇が来るまで、少しだけ待つことを、我々は選択の⼀つとして考えなければならない状況がきたのかもしれません。