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京都は清々しい秋晴れの一日となりました。夏が戻ってきたかのような日差しで、少々痛いくらいです。でも、空の青さは確実に秋の色。哲学の道の桜並木も少しずつ色付き始め、日が暮れるのも随分早くなってきました。本格的な秋まであと少しですね。

今回のコラムは、彦十蒔絵の若宮隆志さんが書いてくださいました。自他共に認める「変態漆作家」の若宮さん。「こんなの誰が買うんでしょうね?うふふ」と笑いながら、空海さんの三鈷杵、油滴天目、キティちゃんの矢立てなど、「何これ!?」と思うような作品を漆で表現されます。若宮さんは、どんなにいいお仕事であっても、自分の気持ちが動かなければ受けないというのがポリシー。本当に自分が作りたい作品だけを、すさまじい情熱を込めて作っておられます。だからこそ、生み出される作品は力を持ち、人の心を動かし、「何これ?」という作品もいつの間にか売れていくのです。

今回若宮さんが取り上げてくださった作品は、915日から24日まで大阪の高島屋で開催される「彦十蒔絵 若宮 隆志 展-あそび心の蒔絵展-」で実際にご覧になることができます。お近くの方は、ぜひ足を運んで「変態漆作家」の世界に触れてみてくださいね。

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蒔絵や着物などの伝統的な文様の一つに「宝尽くし」というのがあり、室町時代に中国から伝わった吉祥文様が日本でオリジナルの縁起文様に発展した、大判小判、団扇、宝珠、七宝、打出の小槌、丁子、宝袋、宝舟、宝鑰(蔵の鍵)、蓑笠、分銅、宝巻(巻軸)などなど!

文様の中には、なぜ縁起が良いのかわからない文様もあるが、少し調べると文様から幸運を連想するクイズのようで面白い、彦十蒔絵でも宝尽くしの文様を使い現代の情報や自分の勝手な思い込みを含め「宝珠型 宝尽くし蒔絵 内組盃 五節供蒔絵」を制作した。

この作品は大阪で発表するので豊臣秀吉に由来する「天正十六年の菱大判」をテーマに描いた、この大判は豊臣秀吉が後藤家一門に命じて制作したもので流通貨幣ではなく朝廷や公家への贈答品として、また家臣への恩賞として使われたようで、それまで5枚しか確認されておらず6枚目の天正十六年の菱大判は2015年スイスのオークションで1億円以上の値がついたという大判である。

大判小判は財運を象徴しているので天正十六年菱大判であれば、普通の大判小判を描くより財運がさらに上がるであろうと考えた、もしかしたら宝くじも当たるかもしれないと思うだけで楽しくなる。

「軍配」は時代劇の武将や相撲で行司が持っているもので「軍配団扇」、三国志の諸葛孔明が持っているのも羽根の団扇で戦いを采配する軍配師が使う道具、人を扇動し勝負に勝つために欠かせない要素が天候であるので軍配には陰陽五行、八卦、易などの思想を取り入れ、自然環境さえも「軍配団扇」でコントロールし新しい風を起こし勢いをつけるすごい道具。

7つの水玉文様」は世界中に散らばった七つの玉を集めると一つだけ願いをかなえることが出来るというアニメから連想した宝物。

器物は宝珠型という形で「如意宝珠」の事、意の如く願いがかなう宝の珠で龍が掴もうとしている珠、日本武道館の屋根、橋の欄干にも宝珠がある。

この宝珠は蓋物になっていて内部に五段重ねの盃を入れ子にデザイン、盃の蒔絵は五節供を施し「供」の字は人が手を揃えて物を捧げることから季節のお供え物を盃の裏面に描いた。

盃の大きさで順番を決め、サイコロを振り出た目の盃で甘酒やジュースを子供達と飲んだらとても楽しいと思う。

宝珠の内側には伊藤若冲の「動植物綵絵 蓮池図」を描き、蓋裏には北極星を中心に広がる宇宙を象徴する曼荼羅文様をデザインした。

この宝珠を手に取ることで宇宙と自分が一体となり、自分の内に在る宇宙に気付くことができれば想いがかなうと考えた。

日本人の生活と共に発展してきた漆器の意匠には縁起物の文様が多い、不思議と縁起が良いと思うだけで気持ちが明るくなり、物事に前向きに取り組む気持ちが湧いてくる、単に道具としてだけではなく人の心の中で役立つ楽しい漆芸品をこれからも制作したいと思っている。