オンラインショップ

会員ページ

心游舎コラムの投稿はしばしの夏休みを頂いておりました。復活したら、もう9月。残暑厳しいというよりは、秋の入り口のような気候ですね。このまま秋に向かっていくのでしょうか。

今回のコラムは、和樂ライターの新居典子さん。伝統芸能エキスパートの新居さんには、歌舞伎やお能のオンラインセッションのときなどに、司会を務めて頂いています。マイクの設定の関係で、声が少し届きにくいのが玉に瑕です。彬子女王殿下とは公私共に仲が良い新居さん。舞台鑑賞はよく一緒に行かれていますが、お互い気になるポイントや眠くなるポイントがほとんど同じなので、隣にいるのがとても気楽なのだそうです。どちらかが眠くなると、かばんをごそごそして眠気覚ましのミントを取り出し、どちらかがさっと手を出すという阿吽の呼吸のコンビネーションが見られるときもあるそうですよ。

少し秋めいてきましたが、背筋がひやっとする納涼ものを歌舞伎座で楽しみたいものですね。

___________

コロナ緊急事態宣言の中ではありますが、やはり大好きな歌舞伎見物はどうしてもやめられない私です。

なにしろ歌舞伎座のコロナ対策はどの劇場よりも厳しく安全で、今年8月になって新たに緊急事態宣言が出てからは歌舞伎座内の売店や自動販売機すら閉鎖するほどの徹底ぶりです。そして、客席やロビーで少しでもお喋りしていると容赦なく注意されます。実際に、彬子女王殿下と私、約1年前に客席での私語を(べつに大声で話していたわけでもないのに、ですよ)注意されてしまい、それに意気消沈。最近では歌舞伎座に入ると喋らないことは当たり前のようになりました。1年ほど前には、歌舞伎座で大向こう(掛け声)がないことに大きな違和感を感じていましたが、次第にその空気にも慣れてきました。少しずつ歌舞伎見物の常識も変わってきたような気もします。しかし、その良し悪しは別として、この状況下で生の舞台を無事に感劇するためには多少の我慢は仕方ありません。

さて、猛暑が続く日本の夏を少しでも涼しく過ごすために、昔から日本人は様々な工夫をしてきました。その一つが(怖くてゾッとして寒気をおぼえるような)怪談ものを体験すること。きもだめしも夏の風物詩ですね。歌舞伎や落語でも、夏になると納涼と名売って怪談ものの演目がかかります。

今年も、猛暑の8月に歌舞伎座で上演されたのが『真景累ヶ淵~豊志賀の死』。心游舎や彬子様とも縁の深い中村屋の出し物でした。この演目はもともと幕末から明治にかけて活躍した落語家・三遊亭圓朝の怪談噺の一部を脚色して、歌舞伎として上演したものです。

豊志賀は39歳の女性で、富本節の師匠。その内弟子にあたる新吉は21歳。豊志賀の顔に腫物ができて容貌が醜く変わり果てて病床に伏している師匠を、新吉は親身に看病しています。そこに現れた近所の若い娘。豊志賀はその娘に新吉を奪われてしまうのではないかと嫉妬して心身ともに病んで、悶死します。しかし、亡くなったはずの豊志賀が新吉の前に現れて。死んでなお若い恋人の前に現れる執念深さはもう笑ってしまうほどの怖さ、でした。

豊志賀は中村七之助さんが演じ、新吉役は今回大抜擢で中村鶴松さんが演じました。また、中村勘九郎さんが演じた噺家さん蝶が唸るほどのうまさ。「やっぱり観てよかった!歌舞伎座に来てよかった!」と思える舞台でした。来春、4月9、10日には心游舎の主宰で、太宰府天満宮の境内で中村屋の歌舞伎公演が予定されています。公演前には歌舞伎の化粧をレクチャーする歌舞伎ワークショップもあり、夜の公演では勘九郎さん親子や七之助さんらが出演する予定。どのような演目がかかるのでしょう、期待は膨らみます。

残暑も厳しい9月ですが、歌舞伎座ではまだまだ納涼ものがかかります。9月は片岡仁左衛門さんと坂東玉三郎さんの36年ぶりの『東海道四谷怪談』。舞台を観に行くことで、少しでも日本の伝統芸能を支えることができればと(いや、ただただ観たいだけなのですが)、今月も歌舞伎見物に行ってきます。