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立秋も過ぎ、暦の上では秋になりました。まだまだ暑いですが、立秋以降は「暑中見舞い」ではなく、「残暑見舞い」となります。お盆の時期、関西は雨続きで少し涼しくなる予報ですが、残暑とはいえ、また暑くなりそうです。

古今和歌集には、紀貫之が立秋の日に詠んだ「川風の涼しくもあるかうち寄する波とともにや秋は立つらむ」という歌があります。殿上人たちが、賀茂川の河原を散策した折に、涼しさを感じさせる風に波が立つことを、秋が立つとかけて詠んだ歌です。暑い毎日ですが、涼しさを探しに河原を散歩してみるのもよいかもしれませんね。

今回のコラムは、出雲大社権禰宜の長田圭介さんによる暦のお話です。生まれたときから新暦での生活ですが、旧暦の方が日本人の生活にはやはりあっているような気がします。

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暦について

暦(こよみ)は時間とともに人間が暮らしを営む上で欠くこと出来ないもので、「こよみ」の語義は『和訓栞』曰く「日読(かよみ)」で「歳月日時を細かに数へしるせしもの」で1日・2日と日を数えることを意味します。これに対して、漢字の「暦」は天体の運行を測算して日々の季節や時候を記した記録であり、両者を測算・構成する方法が暦法、すなわち太陽暦や太陰暦・太陰太陽暦と呼ばれるものです。

三者の違いは、太陽暦は文字通り太陽の出入や高度など運行に基づく暦法、太陰暦は新月や半月・満月の月の満ち欠けの周期によるもの、太陰太陽暦は太陰暦で一月や一年を数えつつ太陽運行に基づいて季節を調節する暦法です。その成立は、太陰暦・太陰太陽暦・太陽暦の順で、現在、世界中で圧倒的に採用されているのは太陽暦で、人々はその日月に則って日々の生活を送っています。

日本では明治5年(1872)に太陽暦が決定し、同年123日を明治611日として長年使用していた太陰太陽暦(旧暦)から太陽暦(新暦)へ改められました。以来、1年を365日、4年に1度閏年を置く年月の数え方となって来年で150年となります。

しかし、現在でもテレビでは、「立夏」や「立秋」に季節の訪れを告げるニュースに際して「暦の上では」と旧暦を意識した言葉が付け加えられるのをよく耳にしますし、季節の移ろいやその情趣を伝える彼岸や八十八夜・土用の雑節も旧暦に由来をもつものです。また、旧暦で年の初めにあたる「立春」には、各地の中学校で数え15歳にあたる生徒たちによる「立志式」が催されるなど、現代でも旧暦を意識した生活・行事が営まれていることが分かります。海外でも、中国の「春節」に代表される旧暦で正月を祝う文化は、台湾やモンゴルのほか中国文化の影響が強い東南アジア地域に見ることができます。また、イスラム教の有名なラマダーン(断食月)はヒジュラ暦という太陰暦(イスラム暦)で計られています。

神社でも、出雲大社をはじめとする旧出雲国(島根県東部)に鎮座する各神社で斎行される神在祭(神在月)は旧暦10月の各日を祭日とし、ほかにも厳島神社の管弦祭(旧暦617日)、太宰府天満宮の秋思祭(旧暦910日)などが旧暦に則って神事が斎行されています。往古以来変わらぬ暦日を踏んで神事・祭祀の伝統が繰返し営まれてきたと考えるとき、過去と未来を繋ぐ現在、神道における「中今」を強く意識することがあります。

旧暦には、他にも二十四節気や七十二候、雑節などの春夏秋冬や月名だけでは表現しきれない多彩な季節の情趣を感じさせてくれる言葉があります。良くも悪くも、コロナ禍で日々の生活のサイクルに少々ゆとりが生じている昨今、少し意識を変えてみることで一風変わった季節の移ろいを感じることが出来るかもしれません。