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梅雨の晴れ間が広がっていましたが、また梅雨空が戻ってくるようですね。

週が明けて6月30日は夏越の祓です。各地の神社には、茅の輪が既に設置されていますが、もう茅の輪くぐりは済まされましたか?茅の輪をくぐり、人形を流して半年分の厄を祓う夏越の祓。京都では水無月という和菓子を食べる習慣が根付いていますが、最近は「夏越ごはん」なるものも提唱されているそうです。蘇民将来が須佐之男命をもてなしたという粟や邪気を払う豆などが入った雑穀ご飯の上に、邪気を払うと言われる赤や緑の夏野菜のかき揚げを茅の輪に見立てて乗せ、百邪を防ぐという生姜の入ったたれをかけていただくおどんぶりだそうです。栄養もしっかり摂れますし、暑い夏がやってくる前に力を蓄えられそうですね。

今回のコラムは、トロンボーンを吹く+童顔であることから、通称「トロンボーヤ」と呼ばれている上賀茂神社権禰宜の米山裕貴さんです。4月から心游舎担当になり、いつも汗をふきふき、一所懸命にお手伝いをしてくれています。しっかりしてきたら、ボーヤから格上げして、「トロンボーイ」にしてあげると言われているそうです。そんなトロンボーヤによる音楽のお話。ヘルツってなかなか奥深いものなのですね。(写真はドイツの物理学者で、電磁波の放射の存在を実証したハインリッヒ・ルドルフ・ヘルツです)
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神社内辞令に伴い、心游舎担当を拝命しました権禰宜の米山裕貴と申します。

私事乍ら実家が音楽教室で、毎日、ピアノ・歌声が聞こえてくる環境で生活をしていました。実際に私もピアノ・エレクトーン・トロンボーンに携わっていたので、奉職後、雅楽を始める際にスムーズに入れるかなと安易に考えていましたが、それは大きな間違いでした。いざ雅楽器を吹いてみると、何か違和感を感じました。その違和感は「Hz(ヘルツ)」でした。

「Hz(ヘルツ)」とは国際単位系の組立単位・振動数・周波数数の単位です。ひとつの楽曲に対して多くの演奏者が様々な楽器で演奏をします。同じ楽器で同じ音を出したとしても、演奏者・楽器のコンディション・気温・室温等によって音程のばらつきがおきます。その際に必要となってくるのが基準音であり、その基準音に音程をあわせることでハーモニーができます。基準音にあわせる上で、「Hz」が必要不可欠になり、音程をあわせる(チューニング)際に要になるものと言われています。

なぜこの「Hz」が違和感の答えかといいますと、私が奉職する前に携わっていたピアノ・トロンボーンの「Hz」は一般的に442Hzで音程調整をします。それに比べて雅楽は430Hzです。ピアノに関しては440Hzであわせることもあります。442Hzが一般的なのは他の楽器と一緒に演奏をすることが多いということでそのHz数になっているといわれています。「Hz」数が上がる程、音程が高くなり、「Hz」数が下がる程、音程が低くなります。ピアノと雅楽では12Hzの違いがあり、私はそのHz数の差から違和感を感じ始めたかと思います。

ちなみにこの「Hz」というのは、Hz数を要にして音程調整をする当初からこのHz数では無く、長い年月とともに変わっています。

クラシック音楽を例にしますと、慶長5(1600)年から寛延3(1750)年頃までのバロック音楽。バロック音楽の基本は415Hzと言われております。次は寛延3(1750)年から文政(1820)年頃までの古典派時代。古典派時代の基本は430Hzと言われております。これは先程の雅楽のHz数と同じ数になっています。その後、国や地域により様々なHz数で演奏がされていましたが、昭和14年(1939)年に「万国規格統一協会(ISA)」会議がロンドンで開催時に採択されたものが昭和30(1955)年に「国際標準化機構(ISO)」によって国際的にHz数を440Hzと採用されたという歴史があります。

雅楽は主に笙(しょう)・篳篥(ひちりき)・龍(りゅう)笛(てき)の3管で演奏をします。その中で私は笙を演奏しておりますが、曲中に笙が他の2管の前に音を出しその音を聞いて2管が音を出していきます。しかし、笙自体は430Hzにあわせて音程調整が素人には出来ません。私の場合は勿論、雅楽会の演奏者によって竹リードの調整をして頂き、音を作って頂いてますので、出したい音のポジションに指をあわせて吐いたり吸ったりして音をだします。

クラシックは演奏が始まる前、首席奏者が音を出し、それに音を重ねて全体の音程を調整するチューニングがありますが、雅楽にも音(ね)取(とり)というものがあります。笙が音を出し、笙にあわせて篳篥が音をだします。続いて龍笛が音をだし、2管が音程を調整するものとなっています。このように雅楽においては笙が音の基準となりますが、楽器自体で私が「Hz」を使っての音程調整をおこなわないことで、「Hz」数の違いにも気づかず、違和感を感じたかと思います。雅楽において笙は旋律を奏でる役ではありませんが、曲を作っていく上で重要な役にあたります。笙1管の演奏で和音を奏で篳篥・龍笛に対しての伴奏やベースも奏でます。しかし、その重要な役目である笙自体が音程を調整することが素人には出来きません。素人の演奏者程、音程を気にして演奏をすると学んできた西洋楽器の経験者としては考えられないことですが、音程調整をおこなわなくても三管揃うと雅楽の和音が出来上がり、違和感から始まったテーマで改めて雅楽の奥深さを知った次第です。