梅雨とは、梅がつはり(ふくらみ)熟す時期であることから名付けられたという説がありますが、各地で梅の収穫の便りが聞こえてきますね。スーパーでも青梅が並んでいるので、梅酒や梅シロップを漬けられた方も多いのではないでしょうか。
俳句や短歌に梅の実を詠んだものはよくありますが、梅の実の和歌はあまり聞いたことがありません。梅の花を詠んだものが多いと言うことを思うと、とても対照的です。和歌では食欲や性欲など、動物も保持しているものは、宮廷和歌では詠まないのだそうです。中国の漢詩では、友とお酒を酌み交わすようなシーンがよく出てきますが、和歌では食べ物やお酒は出てきません。海を隔ててお隣同士の国ですが、考え方がずいぶんと違うものですね。
今回のコラムは、お馴染み神永曉さんの言葉のお話。平安時代にも、クールビズ?があったというのは驚きです。でも、当時の6月は新暦では7月くらいですから、今よりももっともっと暑いはず。クールビズにしたい気持ちも頷けます。「六月無礼でネクタイは外させていただきます」なんて使ってみたいですね。
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【ことばっておもしろい! 11】
「六月無礼」―平清盛も「クールビズ」?
6月になると、ジメジメと蒸し暑い日が続くようになります。多くの企業や役所などでは、そろそろ「クールビズ」を始める時季でしょう。実は「クールビズ」という語は、英語ではありません。英語の cool とbiz(businessの略)とを合わせて日本で作られた、いわゆる和製英語です。
夏の暑さはことさら厳しい日本ですから、古くから「クールビズ」の意識はありました。それを表すことばの一つが、今回ご紹介する「六月無礼」です。
陰暦の6月(新暦では7月頃)は暑さが一段と増すので、服装を略式にする無礼も許されるという意味です。
このことばは、『平家物語』の長門(ながと)本と呼ばれているテキストに出てきます。こんな文章です。
「六月無礼とて紐解かせ給ひ、入道も白衣に候ぞ」(二・多田蔵人返忠事)
ひとくちに『平家物語』といっても、数多くの伝本があります。この長門本と呼ばれるものは、現在山口県下関市にある赤間神宮が所蔵しています(重要文化財)。
引用文は、平氏討伐のいわゆる鹿ヶ谷の謀議を描いた部分です。治承元年(1177年)5月29日の夜更け方に、その謀議に参加していた多田行綱(ただゆきつな)が平清盛の邸まで密告に行く場面です。文中の入道というのは、もちろん清盛のこと。「白衣」は「しらえ」で、うす地の夏の衣服のことです。
対面した清盛が多田行綱に、自分は「六月無礼」といって薄着でいるのだから、あなたもくつろぎなさいと語りかけているのです。
『平家物語』の他の伝本にもこの密告の場面はありますが、「六月無礼」の語は使われていません。でも、だからといって「六月無礼」が特殊な語だったわけではないようです。『俚言集覧(りげんしゅうらん)』(1797年頃)、『日本俚諺大全(にほんりげんたいぜん)』(1906~08年)という、江戸後期や明治後期のことわざの辞典にも、この語が収録されています。
「クールビズ」の代わりに、ぜひ復活させて広めたい語だと思います。