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京都ではツバメが飛び始めました。昨日は立夏でしたから、もう暦の上では夏ですね。ツバメは夫婦で子育てをすることから、夫婦和合のモチーフとしてよく使われます。例年なら今頃が見頃のカキツバタも、咲いた姿がツバメの飛んでいる姿を思わせることから、燕子花と書くこともあります。カキツバタの柄のお着物をお召しの奥様は、ご主人が愛妻家の証だという話もあるとか、ないとか。。。ちなみに英語でカキツバタは、rabbitear irisと言います。ツバメの飛び姿かウサギの耳か。月に住んでいるのが、世界ではカニだったり、ライオンだったりするように、同じものを見ていても、人によって見え方が違うものですね。

今回のコラムは、早苗月の始まりにふさわしく、三三米拍子でお馴染み、お米ソムリエの美甘朋子さんです。いつもぴかぴかに輝く白米至上主義の美甘さんですが、この時期になると炊き込みご飯を作られることが増えるのだそうです。かやくご飯の「かやく」は「加薬」もしくは「加役」。ご飯に役割を加えて命をつなぐ。素敵な考え方だと思います。

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今年も彬姫桜から御所出水の八重桜、閻魔堂さんの普賢桜、御室の桜へと変わらない美しさを見せてくれました。そして青紅葉が美しさを増していく頃、田んぼは「田植え」の準備で農家さんはお忙しくなられます。

自然の生業の産物であるお米は、ここ日本では、年間360種類もの品種が栽培されております。有名なところでは、こしひかり、ささにしき、つや姫、ミルキークイーン、雪若丸、いちほまれ、懐かしい品種としては、亀の尾、雪光、日本晴、峰の朝日。惚れ惚れとするお名前のお米がたくさんあります。

お米が日本に伝わって来たのは弥生時代、中国の雲南省、ベトナムとの国境辺りでお米は生まれ、日本に伝わって二千年、そのあまりの美味しさと美しさに日本人は神様への捧げ物としてお米を発展させて参りました。より美味しく、より美しく、神様に喜んでいただきたい一心で歩み続け、神様との直会としてお米を主食としてきました。今や「日本のお米は世界一」という揺るぎないものになっております。このご飯の何物にも変えがたい美しさを毎朝お釜の中で見せて頂ける幸せ、日本にいる事を心から感謝いたします。

そんな美しいお米なのですが、田植えが始まるまさにこの頃から、味に陰りが見え始めます。桜が咲く頃まではあんなに光輝いていたご飯、ある日を境に艶がなくなり、そして香り、味が落ちて参ります。それがちょうど今の季節なのです。

以前はこの頃を「新しいご飯に感謝して美味しく頂く時期」と「これから実りの秋まで美味しいお米が取れるように祈る時期」に分けておりました。農家さんの手によって田植えが始まり、新しいお米に命が授かる頃、それまで美しく光輝いていたお米は、次の代に命を繋ぐように静かに役割を終えるはずなのですが、いえ、ある日気づきました。ここから収穫まで農家さんの命を繋ぐお仕事が始まるのに、私たち日本人の土台を作ってくださっているお米が、命を繋ぐように静かに役割を終えるわけがありません。どんな状況になろうとも、日本人は頑張って、やり遂げることのできる民族です。その日本人が主食としてありがたく頂いてきたお米をこの時期にでも、美味しく頂ける知恵があるはずだと…ございました。

今から二百年前(江戸時代 享和二年)に出版された「名飯部類 杉野権兵衛著」。約百五十品目のご飯料理が紹介されております。豌豆ご飯、空豆ご飯、筍ご飯、桜ご飯、小豆ご飯、木の芽ご飯、蓮飯、紫蘇飯、五加飯、柚飯、海老飯、卵飯、鯛飯、鶏肉飯、鰹飯…。今でいう炊き込みご飯、加役ご飯です。お米が次の世代へと命を繋ぐ時に、更に季節の食材を取り入れ、旬を一緒に頂く。こうして日本人は最後の一粒まで、主食のお米をありがく「命を繋ぐ時期」だからこそ、より大切に知恵で美味しく頂いてきたのです。まさにパーフェクトなご飯です。今年もまたそんな季節になって参りました。