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東京でも京都でも例年より早い桜の開花宣言がありました。京都御苑の近衞邸跡や平野神社では美しい枝垂桜が咲き誇っています。でも、桜守で知られる佐野藤右衛門さんは、「今年は早いとか遅いとか思うのは、人間の勝手な感覚。桜は例年通りの営みを粛々と続けているだけや」と言われ、はっとさせられます。天災があろうと、社会がどのような状況であろうと、自然は変わらずに営みを続けます。東日本大震災の後、津波で壊滅的な被害を受けた被災地で、桜が例年通り本当に美しく咲いたのを見て、頑張って生きようと思った、とぽつりとつぶやいてくださった被災者の方がいらしゃいました。自然は猛威を振るい、人を傷つけることもありますが、人をやさしく包み込むようなものであることもまた事実です。

今回のコラムは、田邊竹雲斎さんが書いてくださいました。竹の命をもらい、その竹にまた命を吹き込んで作品を作り出される田邊さん。今回は、田邊家に代々伝わってきた制作にあたっての教えについて書いてくださいました。伝統と革新は表裏一体と言えますが、新しいものを生み出すというのは、大きなエネルギーを使うものです。田邊さんの竹のインスタレーションには、本当にその大きなエネルギーを感じます。今田邊さんの作品は、東京国際フォーラムで開催されているアートフェア東京2021に出展されています。心游舎ではおなじみの彦十蒔絵の若宮隆志さんや日本画家の神戸智行さんの作品もご覧になれます。ご関心のある方はぜひお出かけくださいね。

https://artfairtokyo.com/
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竹雲斎工房には守・破・離と名付けられた3つの部屋があります。これは伝統を次の世代につないでいく教えです。

「守」は師や代々の教え、技を守り、本道を会得すること。「破」は本道を受け継ぎながらも型を破り、自由な世界を目ざすこと。「離」は1つの教えや伝統から離れ、独自の新しい世界を生み出し確立させること。伝統や文化を受け継ぐということは、伝統を会得し、守り、それを打ち破っていかなくてはいけません。会得するだけでも困難なのに、それを壊し新しい世界を創造することは至難の業です。

私は伝統的な花籃や茶道具、伊勢神宮や宮内庁の宝物を制作しています。その中でも「葛編み」と呼ばれる宝物は、1000年以上にわたって受け継がれている伝承の技術です。伝承とはまさに「守」を表し、文化や技術・制度・風習・信仰を伝えていくことです。

私は伝承の技術を受け継ぎ制作する一方で、新しい竹の世界への挑戦を続けたいと思っています。進行中のプロジェクトにはテクノロジーとのコラボレーションや大手車メーカーのHONDAとのデザイン、コンセプトの開発などがあります。

その中で私の「離」の表現の代表作品は、空間アートであるインスタレーションです。世界の異なった場所に行き、その空間に合わせたコンセプトを持ち、竹のアートをつくるサイトスペシフィックアートです。インスタレーションは展覧会が終わると一本一本竹を丁寧に解いていきます。そして竹は別の場所に移動して再利用します。作品としての形は無くなりますが、材料である竹は循環していきます。現在展示中のトルコのオドゥンパザル近代美術館で使用されている竹は、2018年 フランスのショーモン城、2017年ブラジルサンパウロのジャパンハウス、ニューヨーク のメトロポリタン美術館、2016年フランスの国立ギメ東洋美術館など世界の各地を旅してきた竹です。サステナビリティを意識させるインスタレーションの循環は作品の最も重要なコンセプトであり、四代竹雲斎独自の竹工芸の「離」の世界だと考えています。

千利休の教えを和歌の形にした『利休道歌』の中に「 守り尽くして 破るとも 離るるとても 本を忘るな」とあります。離れた表現をしたとしても、本質を常に軸に持つことが伝統を受け継ぐことなのだと思います。