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鬱々としたニュースばかりが聞こえてくる毎日ですが、晴れ渡った青空を見ると、気持ちが少し晴れやかになりますね。冬の晴れた日、特に穏やかに晴れた日のことを「冬晴れ」「冬日和」といいます。冬日和と言うと、風がビュービュー吹いていたり、雪が降ったりと、冬らしい日のことを指すのかと思っていたら、冬の晴れた日のことなんですね。日本語は奥が深いです。

飯田龍太の「冬晴れのとある駅より印度人」という俳句を目にしたことがあります。思わず二度見してしまうくらい、なんだかおもしろい俳句。インド人はターバンか何かを巻いていたのでしょうか。とある駅ってどんな駅だったんでしょう。これは、寒いところにインド人がいるからおもしろいのですよね。夏晴れだったらインド人が効いてきません。冬晴れという言葉を使ったからこそ印象的な俳句になるのだなと思います。日本語も、そして俳句も奥が深いです。

今回のコラムは、インドではなく、唐天竺の唐の方。煎茶の一茶庵宗家嫡承である佃梓央さんによるオンライン茶会のお話です。佃先生の煎茶会は、お茶室が時空ポケットになったかのように、中国の文人世界とつながるような気持ちがするものですが、彼らの時代にインターネットがあったら、どんなことをしていたのだろうと考えてしまいます。
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「オンライン茶会」誕生!
「オンライン茶会」元年。

それが私どもにとっての2020年という年でした。2020年4月から「オンライン稽古」をスタートさせ、5月のGWからは「オンライン茶会」を月に1回ペースで開催いたしました。「オンライン稽古」も「オンライン茶会」もまだまだ発展途上で、さらなる工夫と改善を必要としていますが、今回のコラムでは、とくに、「オンライン茶会」について、2020年に開催した8回の実績を踏まえて書かせていただこうと思っております。

私ども一茶庵主催の「オンライン茶会」は以下のような流れで進みます。

①茶会前日までに。
みなさまのお手元に茶葉が届きます。

②茶会当日午前中に。
茶料理専門店より、この日のためのお料理が届きます。(※茶会によっては、お料理なしのときもありました)

③茶会当日午前中に。
みなさまのメールに茶会に参加するためのURLが届きます。

④お時間になったら。
みなさまとオンラインで繋がります。

⑤茶会スタート。
まずは今日のお茶葉のご説明や淹れ方のご説明をいたします。
ここからが本格的なお茶会のスタートです。
掛け軸の「絵」や「書」を画面でご覧いただきながら、配信元の一茶庵の茶室に集まった、数人の専門家やゲスト、亭主と、さらにはオンラインでつながるみなさんとともに、画面に映し出された「絵」や「書」について、あれやこれやと好き勝手に語り合います。語り合うなかで、非常に本質的な話が出てきたり、たわいもない冗談が飛び出したり、知らなかったことを教えてもらったり、人それぞれの作品の見方の違いに刺激を受けたり・・・。数枚の掛け軸を並べ、あるいは掛け替えたりしながら、作品をめぐる豊かな対話が繰り広げられます。
対話をしながら、配信元とオンライン参加のみなさまと、同じタイミングでお茶も飲みます。

対話の切れ目を見計らい、お料理に移ります。お料理は湯せんなど、簡単な加熱で調理できるメニューにしています。調理の仕方や盛り付け方法をご説明させていただき、休憩をはさんで、お食事の時間のスタートです。

休憩中にお料理をご用意いただき、休憩後、配信元とオンライン参加のみなさまと、やはり同じタイミングでお食事します。
お食事のときも、さまざまな美術作品を、食べながら見て、語り合います。料理自体も遊びに満ちた料理で、おいしいだけではなく、創意工夫を楽しみながら味わいます。話題は美術作品を中心に、歴史、文学、現代社会の話題まで、多岐にわたって広がります。

2時間半から3時間ほど、美術作品数点を中心に、じっくり語らいながら見て、お茶を飲んでお食事をして、贅沢な時間を過ごします。

このような形での「オンライン茶会」がはじまりました。
Zoomという会議ソフトは、美術作品を画像によって共有してくれ、あるいはこちらの顔とみなさまのお顔を繋いでくれます。もちろん音声によって、遠く離れたみなさまとのリアルタイムでの対話を可能にしてくれています。現代の運送システムは、ご参加のみなさまが同じものを飲んだり食べたりし、味覚をリアルに繋げることを可能にしました。このような形でオンライン茶会を実現することが出来たのです。

ふと振り返れば、2020年4月から5月の緊急事態宣言下では、『不要不急』の外出は控えるよう求められ、『三密』状態での会合は避けるように求められ、『対話しながらの飲食』は自粛するようにと言われてきました。そうです。この条件を『茶会』はすべて満たしているのです。

しかし当時私どもは、そのことについて別に悲観的にはなっていなかったように思います。「オンライン茶会をはじめればいい」と、意外と楽観的だったように記憶しています。というのも、「煎茶」をやってきた先人たちは、とにかく新しいモノ・コトを取り入れ、更新することを、当たり前のようにやって来た人たちだったからです。それが「煎茶」の伝統だ、と私自身、心のどこかで思っていたからに違いありません。

かつて煎茶人たちが、それまでの流れを一新してきた事例は挙げればいくらでも出て来るでしょう。例えば幕末からは「絵入りの茶会の記録」である、いわゆる「茗醼図録(めいえんずろく)」という出版物が出てきます。それまでの茶会の記録というのは、文字情報として道具(茶席で使う美術品や工芸品)のリストを「会記(かいき)」として記録していました。それを「茗醼図録(めいえんずろく)」では、もちろん文字情報も掲載されますが、どんな道具を、どんな風に部屋の中にしつらえたか、ビジュアルで分かるように絵とともに記録しました。しかもそれが印刷された出版物となりました。そうすることで、煎茶席を、ベールに包まれたあいまいな世界から、美術作品や工芸作品をビジュアルで具体的に楽しむ世界として、世間に提案することに成功したのです。

この変化を、「高級な美術品鑑賞中心主義に陥ってしまった」とか「それまでの豊かな精神性と文学性、知性をないがしろにするようになってしまった」とネガティブに評価する見方もありますが、私は、決してそうではなく、むしろこの変化を担った人たちは「豊かな精神性と文学性と知性」を兼ねそろえており、さらにその上に、「より素晴らしい、洗練された美術品を競ってしつらえられるようになった」と、この変化を退化ではなく、進化だと考えたいと思うのです。とくにこの変化が起きた初期は、それまでの「豊かな精神性と文学性と知性」とに、新たに洗練された「美意識」が加わった、そんな本当に充実した煎茶の世界だったと考えています。

変化の起きる初期は、何とも言えない不安とワクワクする高揚感とが混じり合いつつ面白いコトがおこってくるものです。

「オンライン茶会」という新しく誕生してきたコトが今後どうなっていくのか、どの様に価値づけられていくのか、それはまだまだやっていかないとわかりません。「オンライン茶会」というコトが、このウィズコロナ時代に何を提案できるのか、まだまだ分からないことだらけですが、毎回新しいことに挑戦し続けたいと思っています。
2021年は再び緊急事態宣言下からのはじまりです。

私どももこれまでのような「稽古」や「茶会」ができず、思うように行事企画が進みません。「三密」、「対話しながらの飲食」、「不要不急」、コロナ禍で出てきたこのネガティブな価値判断を背負いながら、2020年に生まれた「オンライン茶会」「オンライン稽古」をポジティブな挑戦の手段として、2021年も不安とワクワク感の入り混じる面白い年にしていきたいと考えています。

2021年も、彬子女王殿下はじめ、心游舎に関わる皆様と、深く楽しい学びをご一緒できますことを願いおる次第です。何卒本年もよろしくお願い申し上げます。