いつの間にやら1月も折り返し地点。お正月気分は返上して、気合を入れ直さなければと思う今日この頃です。1月15日は小正月。しばらく前までは、成人の日だった日です。小正月に元服の儀式が行われていたことから、この日が選ばれたと言われています。
旧暦の頃は、年が変わるとみな一斉に年を一つ重ねました。0の概念がなかった当時は、生まれたときが1歳。12月生まれの人は、生まれて1か月たたないうちに2歳になってしまうことになるので、現代の感覚でいうと、なんだか変な感じですね。新年の行事が一段落し、日常に戻っていく中で、その年に新しく大人の仲間入りをした若者をお祝いするということだったのでしょうか。
今年は開催が延期・中止されたり、オンラインになったりと、いつもと違う成人式だったと思いますが、新成人の皆さんには、この逆境をばねに、大きく社会に羽ばたいていってほしいと願っています。
今回のコラムは、小正月にふさわしい、お正月のお話の締めくくり。太宰府天満宮の真木智也さんが書いてくださいました。今年は全国どこの神社も、初詣の参拝客は例年の半分以下だったところが多いようです。来年は晴れ晴れとした気持ちでお正月を迎えられたらいいなあと思います。
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「正月の祝(いわい)」
一月のことを敢えて「正月」というのは何故でしょうか?また、正月の「正」の字は何偏(部首は何なに)でしょう?答は「止」偏です。正月とは「一に止まる月」なのです。
人間はすべて、生まれた時は無垢ですが、時間とともに上下左右します。そんな自分を原点に戻し、立ち帰る月、それが正月なのです。世の中の平安や人々の幸せの原点に立ち帰るよう祈り願う月ともいえるのです。
正月に私たちは「明けましておめでとうございます」といいます。この日は万民に平等に訪れますので、個人としては、何もとりたてておめでたいことではないのです。それではなぜおめでたいのでしょうか?「めでたい」という言葉は、「芽が出る」、「芽出度い」からきているともいわれています。古代日本は、草木が芽を出す春の始めを年の始めとしていました。それが太陽暦になって「迎春」にそぐわない時期になってしまったのです。
この年の始めである正月は、神を迎える「事始め」、すなわち「神事始め」で、一年で最も大事な神祭りを行う時でもありました。「歳神様」、いわゆる稲の神様、農耕文化の神様、さらに祖先の御霊が我が家に帰ってくると古代人は信じていました。これがおめでたいのです。
松飾りは、ご先祖様に対して、「あなたの家はここですよ」という目印(依代(よりしろ))です。竹は、冬でも真っ直ぐに伸びて青々としていますし、松もそうです。梅は、長い冬を耐えて、葉より先に花が出てきます。また、煤払いや大掃除は歳神様を迎えるお清め、神様を迎える清浄な空間をつくりあげることなのです。それからお餅をつきます。これも私たちが雑煮を食べるためにつくのではなく、歳神様やご先祖様方の元旦の日の出から一月七日の夕陽の頃までの、神様の食糧なのです。
お餅がつき終わると神棚の掃除をし、若水を上げて暮れを迎えます。この若水とは一年で一回しか汲むことができない水で、すべてが整った時に神様に上げる水、そしてお清めにも使う水です。次に注連縄を飾りますが、この注連縄はお清めが終わりましたという印です。そして初詣となります。その初詣にかかせないのが破魔矢です。鬼門といわれる北東に向けて下げておくとよいといわれています。初詣とは本来、参拝と破魔矢を受けるものです。
それから、お節料理の重箱ですが、重箱のまま食べていいのは三日間だけです。四日目からは小皿に分けて出します。そして箸は、七日間は両削箸を使います。両削箸は、片一方は絶対に汚してはいけません。何故ならば、その反対側は歳神様、あるいはご先祖様が召し上がるためにあるからです。我々が食べているとき、神様も一緒に召し上がることを「神人共食」といいます。本来お節料理というのは、正月に歳神様、ご先祖様にお供えをした食材、それを神饌調理したものです。それをゴッチャ煮したのが雑煮です。
七日になると、玄関先で子供たちが注連縄を集めてほっけんぎょう、どんど焼き、左義長と呼ばれる送り火を行います。これは、八月の盂蘭盆会、京都の大文字焼き、船形焼きと同じです。お盆の送り火は、民間信仰の中ではそれほど古くはなく、お正月の送り火の方が先です。歳神様やご先祖様が元の神の座にお戻りになるのですから、送り火を焚かなければいけません。そのときに鏡開きをします。お供えしたお餅をおしるこにしたり、ぜんざいにしたりして食べます。このお餅こそが年玉、すなわち年霊、年魂で、家族で分かち頂くことで祖先の生命力を受け継ぎます。
そして七日は人日といい、人の日ともいわれ、七草がゆを食べます。冷蔵庫の無い時代に、日もちの良い食物を作らなければならなかったお節料理は、元来「日もちのする物=消化に悪い物」を食べることになります。お餅もそうです。お餅は、体に入るとご飯よりも消化が遅いのです。ですから七日に七草がゆを食べます。これは薬草で、消化剤であり、解毒剤といわれていたのです。
※正月しきたりの謂れには諸説ございます。
本年が、皆様方にとりまして実り多き一年となりますようお祈り申し上げます。