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秋がだんだんと深まってきました。京都の紅葉も見頃を迎えています。観光客や修学旅行生を乗せたバスもそこかしこで見かけるようになり、皆さん身動きが取れるようになると目指されるのは京都なのだなと、京都の街の魅力の大きさを再認識しています。

「秋が深まる」という言い方をしましたが、春・夏・秋は「深まる」という表現はしないなということに気付きました。「深まる」というのは、「奥深くなる」「度合いが進む」という意味で使う言葉ですが、他の季節に比べて、秋は日が短くなる、気温が低くなる、木々の葉の色が変わっていくなど、度合いが進んでいく様子を目に見えて感じられるからかもしれませんね。

今回のコラムは、京都産業大学の小林一彦先生です。草かんむりに秋と書いて萩。日本人が古くから愛してきた秋の草を探しにお出かけするのもよいかもしれません。

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「もみじの季節に」

「秋の夕日に照る山もみじ」ではじまる、「もみじ」という歌があります。高音部と低音部のハーモニーも、また追いかけてうたい出す輪唱も、みんなでうたう合唱にはぴったりの名曲です。

さて、テストをしましょう。「もみじ」を漢字で書いてください。ヒントは「コウヨウ」とも読みます。「紅葉」と書けた人、おみごと正解です。ところで、「黄葉」と書いてしまった人はいませんか? でも、その人も、実は正解なのです。

中国の漢詩では、色づいた葉は「黄葉」と書きました。奈良時代の万葉集にも、もみじの歌はたくさんありますが、ほとんどすべて「黄葉」と書かれています。「もみじ」は、もみ出す、もまれてにじみ出てくる、という古い言葉がもとになっています。山や野の神様が見えない手で色をもみ出していると考えたのでしょう。まだ文字をもたなかった日本人は、中国の漢字を借りて、美しい日本の風景や四季の変化を、苦労して一つひとつ、文字にあてはめていったのでした。

平安時代になると「ふくからに秋の草木のしをるれば むべ山風をあらしと言ふらむ」という歌がでてきます。「しをる」は「しおれる」、「むべ」は「なるほど」という意味の古い言葉です。なるほど、山からふく風「山+風」は「嵐」なのだなあ、という「漢字クイズ」のような歌ですが、このおもしろさが成立するには、作者も読者も、漢字の知識を広くもちあわせていることが条件になります。それだけ、漢字を読み書きできる人が増えたということでしょう。

この歌には、「秋の草木」のところにも、「秋」と「++」(くさかんむり)で「萩」(ハギ)が、「秋」と「木」(きへん)で「楸」(ひさぎ、アカメガシワ)が、かくれているとする説があります。萩の枝はしなやかで、楸も葉が広く幹は細いので、つよい風になびきしおれるように見えたのでしょう。

ハギは東アジアに広く分布する植物です。ところが「萩」の文字だけは、日本独自、日本で作られた和製漢字(国字)なのだそうです。いまでも奈良盆地(大和平野)では、ハギをいたる所で見かけます。万葉集でもっとも多く登場する植物は、梅でも桜でもなく、萩でした。萩の葉は秋が深まるにつれ、黄色くなります。万葉びとにとって、まさに「もみじ」とは「黄葉」だったことでしょう。

それが、京都の平安京に都がうつると、「紅葉」と書かれるようになっていきます。なぜでしょう? そのわけを、もみじの季節に考えてみませんか。大発見はいつも、なぜ? どうして? からはじまりました。社会科や理科、また国語の勉強にもなるはずです。

それにしても、野にさく花のために、「秋」と「草」(++)を組み合わせて「萩」の字を作り出し、その美しさにむくいようとした万葉びとの心は、すばらしいですよね。