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例年であれば、祇園祭のハイライトである山鉾巡行の日ですが、今年は静かな京都市内です。それでも、商店街のスピーカーからコンチキチンの祇園囃子が聞こえてくると、なんだかやはりうきうきとした気持ちになります。祇園祭は、もともと祇園御霊会(ごりょうえ)と呼ばれ、貞観11(869)年、日本各地に疫病が流行したとき、神泉苑で当時の国の数66ヶ国にちなんで66本の鉾を立て、災厄を祓ったことが始まりです。まさに今年行うにふさわしいお祭。山鉾巡行はありませんが、八坂神社で神事は粛々と斎行されます。疫病退散を皆で祈る1日にしたいものです。
神永曉さんのお馴染み日本語コラム、今回は動物の鳴き声のお話。犬の鳴き声が英語圏では、bow wow やwoof woofと聞こえることを知った時、同じ場所にいても日本人とは世界が全く違って聞こえるのだろうと思ったことがあります。犬が「びょうびょう」と鳴いていた江戸時代の日本。どんな音の世界だったのでしょうか。
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【ことばっておもしろい! 8】
昔のイヌは、ワンワンとは鳴かなかった!?
イヌやネコの鳴き声って、どんなふうに聞こえますか?もちろん「ワンワン」「ニャーニャー」ですよね。でもこれって、ほんとうにイヌやネコがそう鳴いているわけではなく、人間が、というか日本人がそう鳴いていると聞いた(感じた)鳴き声なんです。
ですから、昔の本には、動物の鳴き声がえーっ!という鳴き声で書かれているものがあります。たとえば「びょうびょう」。なんの鳴き声かわかりますか?イヌがほえる声を表す語なんです。江戸時代に書かれた文章によく出てきます。なんでそのように聞こえたのかはよくわからないのですが、別にその時代の人の耳が、今の私たちのものと違うわけではないと思います。
ところでこの「びょうびょう」にしても「ワンワン」にしても、耳に聞こえた鳴き声をそのまま文字に表そうとしたものです。ところが日本人は、動物の鳴き声、特に鳥の鳴き声を人間のことばに置き変えることもしてきました。たとえばウグイスの鳴き声は、「ホーホケキョ」って聞こえますよね。これを昔の人は、「ホー」は「法(ほう)」でほとけ様の教えのこと、「ホケキョウ」は「法華経(ほけきょう)」で、仏教のお経(きょう)のことだと考えたのです。そのため、ウグイスは「経読鳥(きょうよみどり)」などともよばれました。お経を読む鳥だというのです。このように鳥の声を聞いて、人間のことばにおきかえることを「聞きなし」といいます。
他にもホトトギスの、「キョッキョ、キョキョキョ」というするどい鳴き声を、「テッペンカケタカ」「トッキョキョカキョク」などと聞こえるという人もいます。「テッペン」は、一番高いところのことをいう「天辺(てっぺん)」で、「カケタカ」は、えさを高いところにかけたのか?という意味だというのです。「トッキョキョカキョク」は「特許許可局(とっきょきょかきょく)」で、発明品を、その人だけがそれを使ってもいいとゆるされた権利(けんり)、つまり「特許」を許可する場所という意味です。これは早口ことばでも言いますね。「トウキョウトッキョキョカキョク」というやつです。
鳥の鳴き声は長い時間をかけて聞いていると、だんだんそのように聞こえてくるかもしれません。ためしてみてください。でも、犬の「びょうびょう」だけは、私にはどうしてもそうは聞こえません。