梅雨前線が北上して、全国的に梅雨の空気になってきましたね。陰暦5月5日ごろ、今の暦では6月上旬のことを「薬日」と言い、その時分に雨が降ることを「薬降る」というそうです。この日は薬狩りを行ったり、薬玉を吊るしたりするのですが、中国では陰暦五月を「悪月」と呼び、邪気を払うために行っていたそうです。端午の節句に厄除け効果のある菖蒲や蓬が出てくるのも、こんな理由があるからなのですね。
じめじめして、いやだなと思ってしまいがちですが、お薬が降ってきて、清めてくれているのだと思うと、なんだかありがたい気持ちになりますね。
この時期にふさわしく、今回の神永曉さんのコラムは梅雨のお話。梅雨が世界的に通用する言葉だったとは驚きです。
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【ことばっておもしろい! 7 】
「ばいう(梅雨)」は国際語?
ちょうど今ごろの季節に降り続く雨を、「ばいう」とか「つゆ」とか呼ぶのは知っていますよね。漢字で書くとどちらも「梅雨」です。このコラムの第5回で「熟字訓(当て字)」の話をしましたが、「梅雨」と書いて「つゆ」と読むのも「熟字訓(当て字)」です。「梅雨」と書くのは、ちょうどウメ(梅)の実のじゅくするころに降る雨だからだといわれています。また、「ばいう」は、昔は「黴雨(ばいう)」と書かれることもありました。「黴」ってどういう意味だかわかりますか?カビです。かびるんるんのカビ・・・何だかこの漢字もカビが生えているように見えませんか。この時期はカビが生えやすいので、そのように書いたといわれています。
もうひとつの「つゆ」の方は、なぜそのように言うのか、実はよくわかっていません。空気が冷えて、水分がものの表面につぶとなってつく「つゆ(露)」と関係があるという人もいますが、確実ではありません。
ところでこの「ばいう」という語は、実は世界的に通用することばなんです。世界最大の英語の辞典、イギリスの『オックスフォード英語辞典(The Oxford English Dictionary 略称はOED)』に、ちゃんとこの語がのっています。Bai-uと書かれていて、バイウと読めます。意味の説明もあり、日本の夏の初めに降る雨という内容が書かれています。
OEDには、ほかにも、sushi すし、ninja 忍者などという日本語ものっています。OEDの収録語数は60万語以上で、それにのっている日本語はほんのわずかなんですが、ジメジメした日本の「ばいう」が世界的に知られている辞書にのっているなんて、なんだかちょっとだけうれしくなりませんか。