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30度を超える日も増えてきましたね。暑くはなりましたが、学校が再開され、街にランドセルを背負った子どもたちや、自転車に乗った中高生を見かけるようになると、なんだか街が生き返ったようでホッとします。

今年は夏休みが短縮になり、いつも通りの夏休みを過ごすのは難しくなるのかもしれません。野山に虫取りに行く時間も少なくなるかもしれませんが、今日はカブトムシのお話です。

今回の執筆者は、彦十蒔絵の若宮隆志さんです。國學院大学で学生さん達と心游米を頂く際に、若宮さんにはいつも輪島塗の飯椀を提供頂き、漆塗のお椀でご飯を食べる意味などを伝えて頂いています。

若宮さんでしか作れないこのカブトムシ。頭も蓋になっていて、外すと脳味噌の模様の蒔絵がしてあります。そして中には小さなメスのカブトムシが入っています。いつもメスのことを考えているからだそうです。写真だとわかりづらいですが、実物大で、手のひらに乗ります。作品に込められた若宮さんの思いとその超絶技巧に驚かれること間違いなしです。

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輪島市内から実家に戻る途中に千枚田と言う景勝地があります。毎年5月の連休になると田植えが始まり、海まで続く小さな棚田に夕日が映り、とても美しい光景が見られますが今年は閑散としています。

この地域には「奥能登あえのこと」という奇祭がありユネスコの無形文化遺産にも登録されています。

我が家でも毎年12月5日の夕方になると、普段野良着の祖父が、紋付袴に裃姿で家紋入りの提灯に蝋燭の明かりを灯して、我が家の田んぼ(苗代田)まで「田の神様」をお迎えに行きます。

田の神様は夫婦で目が不自由なため、足元を提灯で照らしながら、声を掛けながら家まで案内します。田の神様が家に着くと、まずお風呂に入って頂き、頃合いを見て座敷に準備された輪島塗の御膳についてもらいます。

田の神様が御膳につくと、祖父が部屋の隅に正座して、畳に両手をついて深々と頭を下げて、今年一年農作物が収穫できた事の御礼を申し上げ、準備した御膳の料理を一品一品説明して、ご馳走を召し上がって頂きます。

この日から田の神様は来年の2月まで私達家族と共に暮らす事になります。

普段から厳しく冗談も言わない祖父が、見えない神様と真面目に話しながら「一人芝居」をしているのですから、子供心には理解の限界を超えておかしくてたまりませんでした。しかし笑うと叱られるので、堪えているとなおさら笑いが込み上げてきて苦しかった事を覚えています。

このような環境で生まれ育ったお陰で、自然と自分が繋がって生かされている事を実感できているのだと感じています、現代の子供達に伝える事は難しいので、私は漆芸作品を通してこの感覚を伝えられないかと模索しています。

例えばこのような作品です。

カブトムシ 蓋物(写真)

カブトムシの内部に私たちが住む世界を描きました。

親の内部には私たちの命の源でもある水を螺鈿で表し植物や昆虫を蒔絵で描きました。

蓋の内側には祖父母と野良仕事を終えて夕方家路につく様子を描きました。犬やクマなど動物もかくれています。

カブトムシがいなければ私たちも生きていけないと感じているからです。