まもなく日本では新茶の時期を迎えます。立春から数えて八十八夜、毎年5月初旬が新茶時期のピークとなります。今年は暖冬だったため、新芽たちが早く芽吹きはじめるかもと、お茶に携わる生産者や茶師たちがそわそわし始める今日この頃。
立春から春分までの間は南からの風が吹き、あたたかい陽気が続けば新芽が膨らみ、時折、吹く北風でまた縮み、今か今かとお茶の新芽たちも、もどかしい日々が続きます。
4月、ようやく新芽が芽吹きはじめると茶畑はキラキラと美しい黄緑色に輝きます。その広々と輝く茶畑の景色は圧巻で、新緑に満ちた世界が広がって眼にも鮮やかな新芽たちが生き生きと迎えてくれます。
毎春、私も笑顔でこの景色を眺め、清々しく幸せになれる瞬間が茶山、茶畑にはあります。
また格別な経験なのは新茶摘み。今では機械で茶摘みをするのがほとんどですが、昔は人の手だけで一芯二葉を手摘みで行なっていました。やってみるとわかるのですが非常に繊細な作業で、やわらかい新芽新葉を優しく優しく摘んでいきます。手に触れるやわらかい葉は赤ちゃんのようにつやつや、すべすべしており、昔の人々は赤ちゃんに触れるようひとつひとつ丁寧に茶を摘んでいたのがよくわかる作業です。また根気のいる地道な作業だからこそ、楽しく摘めるように茶摘みの歌が生まれたのでしょう。
さて、柔らかな新芽をひとつひとつ茶摘みした”生葉”たちはとても豊潤な良い香りを放ちます。丁寧に摘まれたお茶の葉は大きなカゴに集められ、涼しい日陰の環境におかれます。手に取るとなんとも言えない”生葉”の良い香りに包まれ、たまらなく幸せになります。この香りをいつまでも味わいたいとその場から離れたくないほどです。しかしこの新芽の香りはこれだけでは終わりません。ほどなくして日陰におかれた”生葉”たちは蒸しの工程に移ります。大量の”生葉”は湯気が立ち篭める機械の中を順序よくならんで蒸されて行きます。この蒸された茶葉からモクモクとさらに芳しい香りが放たれ、辺りいっぱいに満たされます。この香り高い蒸された茶葉のことを”生茶”といい、この馥郁たる香りを味わうために毎年私は茶畑や工場に足を運んでいるんだと気付かされます。またお茶に携わる方々みんなこの香りを味わうために毎年毎年、努力されているのがよく分かる幸せな香り。
“生茶”という商品もありますが、本来の”生茶”とは、はたまた”生茶”を愉しむということは蒸された茶葉の喩えようのない上質な香りに満たされた体験をいうのであると私は思います。
茶畑の茶摘みから茶葉を蒸す工程をLIVEで感じる贅沢なこの経験。みんなが笑顔になり幸せになるこの体験をもし機会があれば、日本各地の茶畑で子どもたちにも味わってほしいと心より願っております。
そしてこの芳しい幸せな香りと味わい、たくさんの人の手間や思いがギュッと詰まった一服が間もなく新茶として出てきます。茶を口にする前から手に、目に、耳に、鼻にそして心へと楽しめる新茶時期をまもなく迎えます。今年も皆様へ日本の素晴らしい新茶で幸せが届きますよう心からお祈り致します。