「五月蠅」を何と読むか?
前回の答えです。「五月蠅」と書いて、「うるさい」と読みます。ハエは確かにうるさいというか、うっとうしいですよね。
「五月蠅」はもともとは「さばえ」と読み、陰暦5月頃にむらがりさわぐハエのことをそう言っていました。これから単に騒ぐこと、つまりうるさいという意味を表すようになったのです。明治時代の小説を読むと、「五月蠅」と書いて「うるさい」と読ませているものがたくさんあります。だれが考えたのかわかりませんが、遊び心があったのかもしれません。
ところで、この「うるさい」は昔のことばは「うるさし」という形でした。そしてこれを「右流左死」と書くことがありました。なんだか落書きのようだと思いませんか。この「右流左死」も当て字です。これについて、平安時代後期の『江談抄(ごうだんしょう)』という本には次のような話がのっています。
「すぐれた人を右流左死というのは、菅原道真(すがわらのみちざね)が右大臣になったときに藤原時平(ふじわらのときひら)は左大臣になり、ともに人望があった。その後、道真は太宰府(だざいふ)に流され、時平は(39歳で)死んでしまった。そのため、時の人は人望ある人を右流左死と名付けたのである」(原文は漢文)
“右”大臣が“流”され、“左”大臣が“死”んだので「右流左死」と言うようになったというのです。「ほんとう?」と言いたくなりますが、「うるさし」はもともとはいやになるほどすぐれている、またそのようなすぐれた人のことをいう語だったのです。それがやがて、すぐれた人は敬遠したくなるような存在だし、そのような人はこまごまと行き届いていてかえってわずらわしい、うるさい、と思われるようになってしまい、今のような意味になってしまったのです。最初は悪い意味ではなかったのですから、ちょっとかわいそうなことばだと思います。