能は遠い昔の六百年も前から演じられている演劇です。
そのため「お能は日本の伝統芸能」と紹介されることが多いのですが、だからなのか、子どもから大人まで「学ばなければならないもの」とはじめから堅苦しく思われることがとても多いです。
少年ジャンプの『鬼滅の刃』という漫画は知っていますか。今、社会現象になるほどとても人気がありますね。私も興味があって、本屋さんに行ってみたのですが、売り切れていて買えませんでした。その後、三軒まわってようやく買えたのですが、
いざ読んでみると、とても能に似ていて驚きました。
『鬼滅の刃』にはたくさんの鬼が登場しますが、どの鬼も、もともとは人間で、だれもが持っている心のわだかまりをのりこえることができなかった弱い部分をつけこまれ、鬼舞辻無惨という一番の敵に鬼にされてしまいます。実は能の登場人物たちも、同じように戦いに負けた人間や、すきな人にすきになってもらえなかったかなしくてくるしいきもちを、とりのぞくことができなくて、その思いが「怨念」(じょうねん)」となり鬼になってしまうおはなしが多いのです。だからなのか、鬼というふつうはおそろしいイメージがありますが、『鬼滅の刃』に出てくる鬼も能に出てくる鬼も、どこかさみしげです。
『あの子の方が自分よりべんきょうができる』「こんなにどりょくしたのに誰にもみとめてもらえない」と、時に私たちは人とくらべて弱音をはいてしまいますが、本当はそんな風に思う自分自身に一番腹を立てています。
そんなとき、能をみてもらいたいです。
能には、人間の本当の弱さが描かれているからです。登場する鬼がどんな人生を歩んできたのか想像しながら見て、今まで感じたことのない気持ちを味わって欲しいのです。
能を「学んで」見るのではなく今の自分の気持ちとかさね合わせながら「感じて」見たとき、鬼なんか簡単にたおせるくらい強い自分に出会えることができるかもしれません。